遺言書は書き直し(撤回)できる?遺言書の種類も合わせて解説

掲載日:2024年08月09日 カテゴリー:資産相続

遺言書の作成??

「遺言書の作成をお勧めします」とは今まで何度も訴えてきたことですが、
その中で「今書いても気持ちが変わるかも」・「財産の内容は変わるよね」というお声が多く上がります。
そこで、今回は遺言書の撤回や書き直しについて説明します!
遺言書を書いたことがある方も、これから書こうかなと悩んでる方も、まだまだ必要ないでしょって思ってる方も、
ご参考にしてもらえると嬉しいです。

遺言書は書き直し(撤回)できる?

遺言書は書き直し(撤回)できる?
結論から書くと、遺言書は生きている間であればいつでもどこでも何度でも書き直すことができます。
この書き直し(撤回)については民法1022条で定められています。

  民法 1022条 遺言の撤回
  遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができできる。

ここから、遺言の撤回のルールがいくつか分かります。

  ① 誰が? ⇒ 遺言者自身が
  ② どのように? ⇒ 遺言の方式に従って
  ③ 何処を? ⇒ 全部でも一部でも撤回できる

まず①遺言の撤回は遺言者自身がしなければいけません。当たり前のようにも感じますが、他の人にお願いするとかできないんですね。
次に②撤回の方法ですが、遺言の撤回は遺言の方式によってのみできます。どいういうことかというと、遺言にはいくつかの種類があって、
そのいずれかの方式に従っているものでなければ撤回したことにならないです。

例えば「この前の遺言書撤回する!!」と声高らかに叫だり、
公正証書遺言の正本に黒マジックで「撤回する!!●月●日 遺言者○○」と書いても撤回したことになりません。
これは現実に目にしたことがある遺言書です。

この遺言書、遺言者は撤回したつもりだったのでしょうか、法的に撤回できていないので、受け取るはずだった方から
「有効な遺言書である」と主張されてしまい、相続人はこの遺言書に記載されていた受贈者に財産を分配することになりました。
遺言者と相続人のお気持ちを考えると非常に複雑な結果となりました。



遺言書の種類

遺言書の種類
では改めて、遺言の方式とはどんなものがあるのかみていきましょう。
一般的な遺言書は3種類あります。

 ①自筆証書遺言

 その名のとおり、遺言書を自筆(自分)で書いた遺言書のことです。自筆なので、パソコンで入力したものや代筆は認められません。
 どこまで自筆しないといけないか?というと、内容や氏名、日付に至るまで全てです。
 ただ、添付する財産目録については自筆でなくてもOKになっています。自分で書いて自分で保管するものなので、費用もかからないし
 お手軽なのですがその反面、紛失したり相続人に見つけてもらえないまま遺産分割協議が完了してしまったり、内容が不明確で手続きが
 できなかったり、法律上無効になってしまったりとリスクは結構高いです。
 また、遺言者の死後、家庭裁判所で検認の手続きが必要なので相続人にも負担があります。


 ②公正証書遺言

 公証役場で作成する遺言書のことです。
 自筆する必要がないので、ご高齢で文字を書くことが難しくても遺言書を作成することができますし、紛失や法律上無効になるといった
 リスクはなく、確実に遺言内容を実行することができます。
 一方で、遺言書作成時に証人2人が必要だったり、基本的に公証役場に出向く必要があったりとやや煩雑は面はあります。
 (行けない場合は出張サービスもあります。出張費用と交通費は掛かります。)


 ③秘密証書遺言

 遺言の内容は秘密にしておいて、その存在だけ公証役場で証明してもらう遺言書のことです。
 自分で作成した遺言書に封をして公証役場に持っていって、証人2人と公証人の前で「これは私の遺言書です」など色々言って、遺言者や
 証人が署名押印しします。そしてその遺言書は自分で保管するというものです。因みに遺言書は自筆じゃなくてもOKです。
 内容を誰もチェックできないし、秘密にしたければ専門家にお願いした方が確実なので、この方式はあまり利用されていないです。
 では3種類の遺言方式をご紹介したところで、撤回の方法に話しは戻ります。

遺言の撤回方法

遺言書は遺言の方式によっていつでも何度でも撤回できます。
そして遺言の方式であれば、先に書いた方式と別の方式の遺言でも撤回することができます。
どういうことかというと・・・

 ●撤回の具体例

 福岡花子さんは、2022年1月10日、公正証書遺言で「土地を福岡太郎に遺贈する」と遺していました。
 しかし土地を遺贈する候補者が他に数名でてきたので、一旦遺言書を撤回したいと考えました。
 そこで福岡花子さんは2022年3月1日、自筆証書遺言で「やっぱり遺言を撤回する」としました。
 何がポイントかというと、最初に作成した公正証書遺言を後から方式の違う自筆証書遺言で撤回できるということです。
 
次に一部撤回の具体例をご紹介します。

 ●一部撤回の具体例
 福岡花子さんは2022年1月10日、公正証書遺言で「土地と預貯金を福岡太郎に遺贈する」と遺していました。
 しかし土地を遺贈する候補者が他に数名でてきたので、一旦土地に関しては遺言書を撤回したいと考えました。
 そこで福岡花子さんは2022年3月1日、自筆証書遺言で「土地に関する遺言は撤回する」としました。
 こんな感じで遺言の一部に関してのみ撤回することも可能です。

 

撤回の撤回や放棄はできない

ちょっとややこしいのですが、一度撤回した遺言書をさらに撤回することはできません。
例えば先の例の続きで・・・


 ●撤回の撤回や放棄はできない
 福岡花子さんは2022年1月10日、公正証書遺言で「土地を福岡太郎さんに遺贈する」と遺していました。
 2022年3月1日、自筆証書遺言で「やっぱり遺言を撤回する」としました。
 2022年4月1日、自筆証書遺言で「2022年3月1日の撤回を撤回する」としました。
 福岡花子さんの意図としては、撤回の撤回をして2022年1月10日の「福岡太郎に土地を遺贈する」という公正証書遺言を
 復活させたかったのですが、これはできません。
 やっぱり土地を福岡太郎に遺贈したいと思ったら、改めて「土地を福岡太郎に遺贈する」という遺言書を作成する必要があります。
 さらに撤回権の放棄はできないので、「二度と撤回しません!」と固く誓っても、その後遺言書を撤回することは可能です。
 人間、いつ何時心変わりするか分かりませんからね。


ではここまで「撤回する」という遺言書を新たに書いた場合についてみていきましたが、
こんな風に「撤回する」と書かなくても、撤回したものとみなされる場合があります。


撤回したものとみなされる場合がある

遺言を撤回したものとみなされる場合とはどんな場合でしょうか。
大きく4つあります。

 ① 遺言書と抵触する遺言書を作成した
 ② 目的物を生前処分した
 ③ 遺言書そのものを物理的に破棄した
 ④ 目的物を破棄した

福岡花子さんは2022年1月10日、自筆証書遺言で「建物を福岡太郎に遺贈する」と遺していました。
この遺言書があった場合を例に1つずつ見ていきます。

①前の遺言書と抵触する遺言書を作成した

福岡花子さんは2022年5月1日、自筆証書遺言で「建物を福岡次郎に遺贈する」と言う内容の遺言書を作成しました。
これは先に書いた「建物を福岡太郎に遺贈する」という遺言書に抵触しています。なので、福岡太郎への建物遺贈の遺言は
撤回されたものとみなされます。


②目的物を生前処分した

福岡花子さんは2022年5月1日、建物を長崎太郎さんに売却しました。これは遺言の目的物である建物を生前処分しているので、
福岡太郎への建物遺贈の遺言は撤回されたものとみなされます。


③遺言書そのものを物理的に破棄した

福岡花子さんは2022年5月1日に作成した自筆証書遺言を破り捨てました。これは遺言書そのものを物理的に破棄したことになるので、
福岡太郎への建物遺贈の遺言は撤回されたものとみなされます。


④目的物を破棄した

福岡花子さんは2022年5月1日、建物が古くなったので取り壊しました。
これは目的物を破棄したことになるので、福岡太郎への建物遺贈の遺言は撤回されたものとみなされます。


こんな感じで「撤回する」と新たに遺言書を書き直さなくても、撤回されたものとみなされる場合があります。

まとめ

遺言書は一度作成しても、意思能力がある間は訂正や撤回が可能です。
『遺言書を作りたいけど、まだ気持ちや資産内容が変わるかもしれない…』とお考えの方は、後から変更もできるよ!ということを
覚えていただき、『だったら一度作っておこうかな』と考えていただけたら幸いです。

または、『過去に作ったことあるけど、内容を変えたないな』と思っている方も変更は可能です! 
ただ、ご自身だけでは心配なこともあると思いますので、遺言書の作成、変更、撤回はぜひ相続の専門家にご相談下さい。

Written by..

進藤 亜由子 氏

ふくおか司法書士法人 共同代表
1985年、福岡市西区出身。早稲田大学在学中の平成19年度最年少での司法書士試験合格から現在に至るまで司法書士業界一筋。
大手ディベロッパー会社の登記を一手に請け負う東京の司法書士事務所で不動産登記の経験を積み、地元の福岡に戻り、債務整理手続きに特化した司法書士法人で債務整理の経験を積んだ後、独立し伊都司法書士事務所を開設。開業当初より地銀や大手ハウスメーカーからの指定を受け多くの登記手続きを受任。更に債務整理事務所勤務の経験も活かし借金に悩む多くの方の借金問題を解決へと導く。
その後、ふくおか司法書士法人を立ち上げる。他の事務所で断られた複雑な案件を解決し続け、その実績をコラムで紹介。記事を見て全国から相談者が集まる。現在は、相続・遺言手続きセンター福岡支部を運営。事務所内に相続に特化した専門チームを作り、相続に強い司法書士として日々多くの相談に応じている。

ホームページ


関連記事
・土地や不動産を相続したらどうすれば良い?他人事じゃない!相続問題で備えるポイントは?
・相続不動産でモメない・失敗しないために知っておきたいポイントとは?
・相続させたくない相続人がいる場合は?生前の相続放棄のポイントを専門家が解説します
・相続人への遺贈か゛単独申請に簡略化
・プロが教える!意外と知らない!?養子縁組制度と相続

記事一覧へ