相続放棄をしたら万事解決?~管理義務の落とし穴にご注意ください~

掲載日:2024年05月20日 カテゴリー:資産相続

負の財産??

相続放棄をする動機の多くが「負の財産をもらいたくない」ですよね。(他にも「関わりたくない」とかあると思いますが・・・)
では、負の財産って何でしょうか?
まず思いつくのが「借金」です。他にも、税金や家賃などの未払い金も負の財産です。
では、不動産はどうでしょうか?
「不動産?不動産は立派な資産でしょ!」と思われている方、本当に不動産はプラスの資産でしょうか?
田舎の方の土地で、売っても二束三文にしかならない、二束三文でも売れたらいいけど売れないし管理が大変…なんて場合も案外多くあります。
その土地、考え方によっては負の財産になってしまうかもしれません。
負の財産となると、相続放棄も検討が必要になります。
自分が放棄したいと思っているなら、他の相続人も相続放棄をするかもしれません。

相続放棄するとどうなる??

相続放棄するとどうなる??
『え?そもそも相続人全員で相続放棄ってできるの?』
『できるとしたらその土地は一体誰のものになるの?誰が管理するの?』・・・と疑問は増えるばかりです。
この点について少し前に民法の改正があったので、今日は相続放棄と不動産の管理義務についてまとめてみました。
まず大前提として知っておきたいのが『相続放棄ができる人』です。
『相続放棄』というからには、相続権がないとすることができません。

例えば、祖父母と父母、子供1人の家族で父親がなくなると相続権があるのは母親と子供になります。
つまりこの場合、母親と子供は相続放棄をすることができます。
それぞれで相続放棄するしないを判断できるので、『母だけ』『子だけ』するのもありですし、どちらもするということも可能です。

次の相続人にバトンタッチ??

次の相続人にバトンタッチ??
では第一順位である子が相続放棄するとどうなるかというと、相続権は次の順位の祖父母に移ります。
この場合も祖父母はそれぞれで相続放棄をするか選択できます。
では、祖父母どちらも相続放棄するとどうなるかというと・・・

父に兄弟がいれば兄弟が相続人になりますが、この例の父には兄弟がいないので相続人がいなくなってしまいました。
相続人がいなくなるとどうなるのでしょか?
というか、そもそも被相続人が負の財産を持っているのに相続人全員が相続放棄をすることは可能なのでしょうか。

相続人がいなくなるとどうなる?他の相続人や次の相続人へ連絡を!

相続人がいなくなるとどうなる?他の相続人や次の相続人へ連絡を!
ここまで説明した通り、相続放棄をすると他の相続人の負担が増えたり次の順位の相続人に相続権が移ってしまいます。
しかし相続放棄をしたことが次の相続人に自動的に連絡がいくわけではないので、
トラブル回避のためにも、次の相続人や他の相続人に連絡を入れておいた方がよいでしょう。

全員が相続放棄することも可能??

結論から書くと、相続人全員が相続放棄をすることは可能です。
しかし別の理由で相続放棄ができなくなってしまうこともあるので注意が必要です。

▼相続放棄ができなくなる?
以下のような場合には相続放棄ができなくなってしまうので、相続放棄を検討している方は慎重に対応する必要があります。

①熟慮期間を過ぎてしまった場合
相続放棄には熟慮期間というものがあり、この期間内でなければ相続放棄をすることができません。
熟慮期間は民法915条1項に定められておあり、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内となっています。
ややこしい言い回しをしてますが、亡くなったこと自体を知らなかったなどの事情がない限り
亡くなった日から3か月以内と考えておくのが妥当です。

②財産を処分してしまった場合
財産を処分してしまうと、単純承認したとみなされて相続放棄ができなくなってしまいます。
どんなことが単純承認にあたるかというと『相続財産をちょっと使ってしまった』や『よかれと思って被相続人の借金を弁済した』、
『形見分けで遺品をもらってしまった』などの場合も含まれます。
なので、相続放棄を検討している方は相続財産の取り扱いには注意が必要です。

全員が相続放棄したらその不動産はどうなる?

では、全員が無事相続放棄ができたとします。その場合、相続財産である不動産はどうなるのでしょうか?
相続放棄したからといって管理もせずに放置していていいものなのでしょうか?
続人がいなくなった相続財産は、最終的には国庫に帰属します。
しかし相続放棄をしてから最終的なところに行きつくまでには様々な手続きが必要ですし、時間もそれなりにかかってしまいます。
じゃあ、相続人全員が相続放棄した場合、誰が?いつまで?不動産を管理しなければいけないのでしょうか?

民法940条1項の改正

2023年4月に相続放棄をした人の管理について定めた民法940条1項が改正されました。
改正前は誰が?いつまで?ということが明確になっておらず、相続人が1人の場合や最後に相続放棄してしまった人は、
結局、相続放棄をしてもその不動産を管理しなければならないという状況でした。
そこで民法が改正されてこんな一文追加されました。

(改正後 民法940条 第1項)
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の
相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

ポイントはその放棄の時に『相続財産に属する財産を現に占有しているときは』です。
つまり、相続放棄するときにその不動産を現に占有していなければ管理義務を負わないってことになったんです。
現に占有という解釈が難しくなる場合もありますが、例えば被相続人の自宅だったら、被相続人と一緒に住んでいた場合は
現に占有してることになって、管理義務は残るものと考えられます。

管理義務はどの程度?いつまで?

もし相続放棄時に財産を占有していて管理義務が生じてしまった場合は、相続財産清算人が選任されて
その人に財産の管理権が移るまでは管理する必要があります。
相続財産清算人は家庭裁判所へ申立が必要で、申立から選任までに1~2か月程度はかかるので最低でもその期間は管理する必要があります。
どの程度の管理が必要かというと、民法940条で、自己の財産におけるのと同一の注意をもってと定められています。

これは何かというと、管理義務の程度には主に下記の2種類があります。
 ① 善管注意義務
 ②自己の財産と同一の注意義務

善管注意義務とは「一般的・客観的に要求される程度の注意義務」を指し、結構厳しめの注意義務で、自己の財産と同一の
注意義務とはこの善管注意義務よりも軽い注意義務のことを指します。
分かりやすくいうと、違いはこんな感じでしょうか。
『善管注意義務=他人のものだと思ってより丁寧に管理する』、『自己財産注意義務=自分のものを扱う程度に管理する』・・・
何となく、善管注意義務よりは、自己の財産と同一の注意義務のほうが軽い感じがしますよね。

相続放棄後に管理義務が残ってしまう場合は??

まとめると、相続放棄後に管理義務が残ってしまう場合、相続財産清算人が選任されて財産権が移るまでは
自分の財産を扱う程度に丁寧に管理していきましょうね。ということです。
では、この管理義務を怠った場合はどうなるのでしょうか。

管理義務が生じるということは、義務を怠ると損害賠償請求されるリスクが発生します。具体的にはどんなことが考えられるかというと・・・

・建物が倒壊して通りすがりの人がケガをした
・土地が荒れて価値が下がって債権者が債権回収できなくなった
・ゴミ捨て場みたいになって悪臭騒ぎが起きて近隣住民に損害が生じた

こんなことにもなり兼ねないので、相続放棄をして万事解決!もう関係ない!とはいかないのです。

相続放棄を考えたときは専門家へ

相続放棄は家庭裁判所へ申立てを行うことで、手続き自体は割と簡単にできてしまいます。
しかし、悪気なく相続財産を処分してしまったり、相続権が移ることを知らずに相続人間でトラブルになってしまったり、
その後の管理のことまで頭が回らなかったりと、対応を誤ると後々大変になってしまうことも多々あります。
相続放棄しなくちゃいけないか?と考えたときは、相続の専門家にご相談下さい。

Written by..

進藤 亜由子 氏

ふくおか司法書士法人 共同代表
1985年、福岡市西区出身。早稲田大学在学中の平成19年度最年少での司法書士試験合格から現在に至るまで司法書士業界一筋。
大手ディベロッパー会社の登記を一手に請け負う東京の司法書士事務所で不動産登記の経験を積み、地元の福岡に戻り、債務整理手続きに特化した司法書士法人で債務整理の経験を積んだ後、独立し伊都司法書士事務所を開設。開業当初より地銀や大手ハウスメーカーからの指定を受け多くの登記手続きを受任。更に債務整理事務所勤務の経験も活かし借金に悩む多くの方の借金問題を解決へと導く。
その後、ふくおか司法書士法人を立ち上げる。他の事務所で断られた複雑な案件を解決し続け、その実績をコラムで紹介。記事を見て全国から相談者が集まる。現在は、相続・遺言手続きセンター福岡支部を運営。事務所内に相続に特化した専門チームを作り、相続に強い司法書士として日々多くの相談に応じている。

ホームページ


関連記事
・土地や不動産を相続したらどうすれば良い?他人事じゃない!相続問題で備えるポイントは?
・相続不動産でモメない・失敗しないために知っておきたいポイントとは?
・相続させたくない相続人がいる場合は?生前の相続放棄のポイントを専門家が解説します
・相続人への遺贈か゛単独申請に簡略化
・プロが教える!意外と知らない!?養子縁組制度と相続

記事一覧へ